蜻蛉日記
前栽の花いろいろにさきみだれたるを
前栽の花いろいろにさきみだれたるを見やりて、ふしながらかくぞいはるる。かたみにうらむるさまのことどもあるべし。
ももくさにみだれてみゆる花のいろ はただしらつゆのおくにやあるらん
とうちいひたれば、かくいふ。
みのあきをおもひみだるる花の上の つゆのこころはいへばさらなり
などいひて、例のつれなうなりぬ。寝待ちの月の山の端いづるほどに、出でむとする気色あり。さらでもありぬべき夜かなと思ふ気色や見えけむ、
「とまりぬべきことあらば」
などいへど、さしもおぼえねば
いかがせん山のはにだにとどまらで こころもそらにいでむ月をば
かへし、
ひさかたのそらにこころのいづといへば かげはそこにもとまるべきかな
とて、とどまりにけり。