文言葉なめき人こそ
文言葉なめき人こそ、いとどにくけれ。世をなのめに書きながしたる言葉の、にくきこそ。さるまじき人のもとに、あまりかしこまりたるも、げにわろきことなり。されど、わが得たらむはことはり、人のもとなるさへ、にくくこそあれ。
おほかた、さしむかひてもなめきは、などかくいふらむと、かたはらいたし。まいて、よき人などをさ申すものは、いみじうねたうさへあり。田舎びたるものなどの、さあるは、をこにていとよし。
男主など、なめくいふ、いとわるし。わが使ふものなどの、
「なにとおはする、のたまふ」
などいふ、いとにくし。ここもとに
「侍(はべり)」
などいふ文字をあらせばや、と聞くこそおほかれ。さもいひつべきものには、
「人間の愛敬な。などかう、この言葉はなめき」
といへば、聞く人も、いはるる人も笑ふ。かうおぼゆればにや、
「あまりみそす」
などいふも、人わろきなるべし。
殿上人、宰相などを、ただなのる名を、いささかつつましげならずいふは、いとかたはなるを、きようさいはず、女房の局なる人をさへ、
「あのおもと、君」
などいへば、めづらかにうれしと思ひて、ほむることぞいみじき。
殿上人、君達、御前(おまへ)よりほかにては、官をのみいふ。また、御前にては、おをのがどち、ものをいふとも、聞こしめすには、などてか
「まろが」
などいはむ。さいはむにかしこく、いはざらむにわろかるべきことかは。