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枕草子 原文全集「ふと心おとりとかするものは」

著者名: 古典愛好家
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ふと心おとりとかするものは

ふと心おとりとかするものは、男も女も、ことばの文字いやしうつかひたるこそ、よろづのことよりまさりてわろけれ。ただ文字一つに、あやしう、あてにもいやしうもなるは、いかなるにかあらむ。さるは、かう思ふ人、ことにすぐれてもあらじかし。いづれをよしあしと知るにかは。されど、人をば知らじ、ただ心地にさおぼゆるなり。
 

いやしきこともわろきことも、さと知りながらことさらにいひたるは、あしうもあらず。わがもてつけたるを、つつみなくいひたるは、あさましきわざなり。また、さもあるまじき老いたる人、男などの、わざとつくろひ、ひなびたるはにくし。まさなきことも、あやしきことも、大人なるは、まのもなくいひたるを、若き人は、いみじうかたはらいたきことに消えいりたるこそ、さるべきことなれ。
 

何事をいひても、

「そのことさせむとす、いはむとす、何とせむとす」


といふ『と』文字を失ひて、ただ

「いはむずる、里へ出でむずる」


などいへば、やがていとわろし。まいて、文にかいてはいふべきにもあらず。物語などこそ、あしうかきなしつれば、いふかひなく、作り人さへこそいとをしけれ。

「ひてつ車に」


といひし人もありき。

「求む」


といふことを

「みとむ」


なんどは、みないふめり。



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・枕草子 原文全集「ふと心おとりとかするものは」

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渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店
松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館
萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 下」 新潮社

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