正月十余日のほど
正月十余日のほど、空いとくろう曇り、あつくみえながら、さすがに日はけざやかにさし出でたるに、ゑせものの家の荒畠といふものの、土うるはしうもなをからぬ、桃の木のわかだちて、いとしもとがちにさし出でたる、かたつ方はいと青く、いまかたつ方は濃くつややかにて蘇芳(すはう)の色なるが、日かげに、見えたるを、いとほそやかなる童の、狩衣(かりぎぬ)はかけやりなどして、髪もうるはしきがのぼりたれば、ひきはこえたる男児、また、こはぎにて半靴はきたるなど、木のもとに立ちて、
「我に鞠打ちきりて」
などこふに、また、髪をかしげなる童の、袙(あこめ)どもほころびがちにて、袴なへたれど、よき袿(うちぎ)きたる三四人来て、
「卯槌の木のよからむ、きりておろせ。御前にもめす」
などいひて、おろしたれば、はひしらがひとりて、さいあふぎて、
「我におほく」
などいひたるこそをかしけれ。黒袴きたる男の走りきてこふに、
「待て」
などいへば、木のもとをひきゆるがすに、あやふがりて、猿のやうにかいつきてをめくもをかし。梅などのなりたるをりにも、さやうにぞするぞかし。