したり顔なる物
したり顔なる物。
正月一日に最初にはなひたる人。
よろしき人はさしもなし、下﨟よ。
きしろふたびの蔵人に子なしたる人のけしき。
また、除目(ぢもく)にその年の一の国えたる人。
よろこびなどいひて、
「いとかしこうなり給へり」
などいふいらへに、
「なにかは、いとこと様にほろびて侍るなれば」
などいふも、いとしたり顔なり。
また、いふ人おほくいどみたる中に、選(え)りて婿になりたるも、我はと思ひぬべし。
受領したる人の宰相になりたるこそ、もとの君達のなりあがりたるよりも、したり顔に、けだかういみじうは思ひためれ。