位こそな猶めでたき物はあれ
位こそな猶めでたき物はあれ。おなじ人ながら、大夫の君、侍従の君など聞こゆるをりは、いとあなづりやすきものを、中納言、大納言、大臣などになり給ひては、むげにせくかたもなく、やむごとなうおぼえ給ふことの、こよなさよ。ほどほどにつけては、受領なども、みなさこそはあめれ。あまた国にいき、大弍や四位、三位などになりぬれば、上達部(かんだちめ)なども、やむごとながり給ふめり。
女こそ猶わろけれ。内裏わたりに、御乳母は内侍のすけ、三位などになりぬれば、おもおもしけれど、さりとてほどより過ぎ、なにばかりのことかはある。また、おほやうはある。受領の北の方にて、国へ下るをこそは、よろしき人の幸ひの際(きは)と思ひて、めでうらやむめれ。ただ人の上達部の北の方になり、上達部の御むすめ、后にゐ給ふこそは、めでたきことなめれ。
されど、男は猶、わかき身のなりいづるぞ、いとめでたきかし。法師などの、なにがしなどいひてありくは、なにとかはみゆる。経たふとくよみ、みめきよげなるにつけても、女房にあなづられて、なりかかりこそすめれ。僧都、僧正になりぬれば、仏のあらはれ給へるやうに、おぢまどひかしこまるさまは、なににか似たる。