などて、官えはじめたる
「などて、官(つかさ)えはじめたる六位の笏(しゃく)に、職の御曹司の辰巳のすみの、築土(ついひぢ)の板はせしぞ。さらば、西東のをもせよかし」
などいふことをいひ出でて、あぢきなきことどもを、
「衣などに、すずろなる名どもをつけけむ、いとあやし。衣のなかに、細長はさもいひつべし。なぞ、汗衫(かざみ)は。尻長といへかし。をの童の着たるやうに」
「なぞ、唐衣は。短衣といへかし」
「されどそれは唐土の人の着るものなれば」
「うへの衣、うへの袴は、さもいふべし。下襲(したがさね)よし。」
「大口、また、ながさよりは口ひろければ、さもありなむ。」
「袴、いとあぢきなし。」
「指貫はなぞ。足の衣といふべけれ」
「もしは、さやうのものをば袋といへかし」
など、よろづのことをいひののしるを、
「いであなかしがまし。今はいはじ。寝給ひね」
といふ、いらへに、夜居の僧の、
「いとわろからむ。夜一夜こそ、なほのたまはめ」
と、にくしと思ひたりし声ざまにていひたりしこそ、をかしかりしにそへておどろかれにしか。