徒然草『筑紫に、なにがしの押領使』
このテキストでは、
徒然草の一節「
筑紫に、なにがしの押領使」の原文、現代語訳・口語訳とその解説を記しています。
※徒然草は
兼好法師によって書かれたとされる随筆です。
清少納言の『
枕草子』、
鴨長明の『
方丈記』と並んで「
古典日本三大随筆」と言われています。
原文
筑紫に、
なにがしの
(※1)押領使などいふ
やうなる者の
ありけるが、土大根(つちおおね)を
万に
いみじき薬とて、朝ごとに二つづつ焼きて食ひける事、年
久しくなりぬ。
ある時、館の内に人も
なかりける隙を
はかりて、敵襲ひ来たりて、囲み攻めけるに、館の内に兵二人
出で来て、命を
惜しまず戦ひて、皆
(※2)追い返してげり。いと不思議に
覚えて、
と問ひければ、
と言ひて、
失せにけり。
深く信を致しぬれば、
かかる(※3)徳もありけるにこそ。
【指宿】あなたは読める?難読地名の読み方と由来
現代語訳(口語訳)
筑紫に、何々の押領使(という職についていた)などというような者がいたのですが、大根が何に(対しても)優れた薬だと(思って)、毎朝2本ずつ焼いて食べることが、長年にわたりました。
あるとき、(押領使が勤務する)館の中に人のいなかった隙に見計らって、敵が襲ってきて、(館を)取り囲んで攻めたときに、館の中に兵士が2人出てきて、命を惜しまずに戦って、(敵を)皆追い返してしまいました。(押領使はこの2人のことを)とても不思議に思って、
「普段こちらにいらっしゃるとも見えない方々が、このように戦ってくださるとは、どのようなお方ですか。」
と質問してみたところ、
「長年(あなたが薬と)信頼して、毎朝毎朝召し上がった大根らでございます。」
と言って、消えてしまいました。
深く信仰を尽くしていたので、このような恩恵もあったのでしょう。
品詞分解
※品詞分解:
徒然草『筑紫に、なにがしの押領使』の品詞分解
単語
(※1)押領使 | 治安維持にあたった役職。警察 |
(※2)追い返してげり | てけり(完了の助動詞「つ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形)の意味を強めるために撥音便化した「てんげり」の「ん」が無表記となったもの |
(※3)徳 | ここでは「恩恵」と訳す |