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竹取物語『蓬莱の玉の枝』 わかりやすい現代語訳・解説 その4
著作名: 走るメロス
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竹取物語『蓬莱の玉の枝』原文・現代語訳と解説その4

このテキストでは、竹取物語の一節「蓬莱の玉の枝」(その山、見るに、さらに登るべきやうなし~)のわかりやすい現代語訳・口語訳とその解説を記しています。少し長いので、5回にわけて説明をしていますが、このテキストはその4回目です。



『蓬莱の玉の枝』関連テキスト

・竹取物語『蓬莱の玉の枝』その1(くらもちの皇子は〜)

・竹取物語『蓬莱の玉の枝』その2(かかるほどに、門をたたきて〜)

・竹取物語『蓬莱の玉の枝』その3(翁、皇子に申すやう、)

・竹取物語『蓬莱の玉の枝』その4(その山、見るに、さらに登るべきやうなし。~)

・竹取物語『蓬莱の玉の枝』その5(かかるほどに、男ども六人、つらねて~)


竹取物語とは

竹取物語は、平安時代初期に成立したとされる物語です。正確な成立年や作者は未詳です。


前回までのあらすじ

蓬莱の玉の枝を持って帰ってきたくらもちの皇子は、かぐや姫の家に枝を見せに行きました。そこで皇子は、おじいさんに枝を手に入れた冒険の話をし始めます。あてもなく海にでて500日ほど漂ったところ、ついに皇子一行は、とある山に辿りつきました。そこの山の住人であろう、天女(らしき人)にその山の名前を聞いたところ、「蓬莱の山」とのことだったので、皇子の喜びは爆発したのです。

皇子の話はまだまだ続きます。


原文

その山、見るに、さらに登るべきやうなし。その山のそばひらをめぐれば、世の中になき花の木ども立てり。金、銀、瑠璃色の水、山より流れいでたり。それには、色々の玉の橋わたせり。そのあたりに照り輝く木ども立てり。その中に、この取りて持ちてまうで来たりしはいとわろかりしかども、のたまひしに違はましかばと、この花を折りてまうで来たるなり。



山はかぎりなくおもしろし。世にたとふべきにあらざりしかど、この枝を折りてしかば、さらに心もとなくて、船に乗りて、追風吹きて、四百余日になむ、まうで来にし。大願力にや。難波より、昨日なむ都にまうで来つる。さらに、潮に濡れたる衣だに脱ぎかへなでなむ、こちまうで来つる」


とのたまへば、翁、聞きて、うち嘆きてよめる、
くれ竹のよよの竹とり野山にも さやは わびしきふしをのみ見し

これを、皇子聞きて、
「ここらの日ごろ思ひわびいはべりつる心は、今日なむ落ちゐぬる」



とのたまひて、返し、  
我が袂 今日かわければ わびしさの 千種の数も 忘られぬべし

とのたまふ。

※つづく:竹取物語『蓬莱の玉の枝(かかるほどに、男ども六人〜)』わかりやすい現代語訳と解説5




現代語訳

その山を見てみると、まったく登る手段がありません。その山の周りを廻っていると、この世の物とは思えない花の木々が立っていました。金色、銀色、瑠璃色をした水が山から流れています。その川にはいろいろの玉で作られた橋がかかっています。そしてそのあたりに光り輝く木々が立っていたのです。その中では、この採ってきた枝は(他の枝に比べたら)よくない質の物だったのですが、かぐや姫がおっしゃられた物と違ってはならないだろうと、この花を持ってきたのです。



山はたいへん興味深いものでした。この世に例えるものがないほどですが、この枝を折ってしまうと、かぐや姫に会うのが待ち遠しくなって、船に乗りました。すると追い風が吹いて、400日ほどして参上した次第です。神様のお力添えでしょうか。難波から昨日都に参りました。そして潮にぬれた衣さえ着替えることもなくこちらに参上したのです。

と皇子がおっしゃったので、おじいさんはこれを聞いて、すっかり感激して歌を詠みました。
代々、竹取の仕事で野山にはいりますが、そのように辛いことがあったでしょうか、いやないです。




これを聞いた皇子は、
長い間つらいと思っていた心は、(その言葉、やりきった気持)で今日落ち着きました。

とおっしゃいました。そして返歌に
(かぐや姫への思いと海の潮、これまでの苦労の涙)で濡れていた私の袂も今日乾きました。1000種類もの辛さも忘れることができましょう。



とおっしゃいました。

※つづく:竹取物語『蓬莱の玉の枝(かかるほどに、男ども六人〜)』わかりやすい現代語訳と解説5


単語

さらに打ち消しをともなった場合、「全く~ない」と訳す
のたまふおっしゃる
おもしろし興味深い
心もとなし待ち遠しい
よよ代々
さやはそのように~だろうか、いやない。反語
わびしつらい



関連テキスト

・竹取物語『冒頭』(今は昔、竹取の翁といふもの〜)

・竹取物語『火鼠の皮衣』(家の門に持て至りて立てり)

・竹取物語『帝の求婚』(帝、にはかに日を定めて~)

・竹取物語『かぐや姫の嘆き』(八月十五日ばかりの月に出でゐて、~)

・竹取物語『かぐや姫の昇天』(かかるほどに、宵うち過ぎて、〜)

・竹取物語『かぐや姫の昇天』(立てる人どもは~)

・竹取物語『かぐや姫の昇天』(竹取、心惑ひて~)

・竹取物語『かぐや姫の昇天』(天人の中に持たせたる箱~)


著者情報:走るメロスはこんな人

学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。

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