おぼつかなし/覚束なし
このテキストでは、ク活用の形容詞「
おぼつかなし/覚束なし」の意味、活用、解説とその使用例を記している。
形容詞・ク活用
未然形 | おぼつかなく | おぼつかなから |
連用形 | おぼつかなく | おぼつかなかり |
終止形 | おぼつかなし | ◯ |
連体形 | おぼつかなき | おぼつかなかる |
已然形 | おぼつかなけれ | ◯ |
命令形 | ◯ | おぼつかなかれ |
■意味1
はっきりしない、ぼんやりしている。
[出典]:
折節の 徒然草
「山吹の清げに、藤の
おぼつかなきさましたる、すべて、思ひすてがたきこと多し。」
[訳]:山吹(の花)がさっぱりとしてきれいに(咲き)、藤(の花)が
ぼんやりとはっきりしない様子が、すべて、見捨てにくいことである。
■意味2
不審だ、疑わしい。
[出典]:徒然草
「四条大納言選ばれたる物を、道風書かんこと、時代や違ひはべらん。おぼつかなくこそ。」
[訳]:四条大納言が編纂されたものを、小野道風が書くということは、時代が違うのではないでしょうか。疑わしく(思います)。
■意味3
気にかかる、気がかりだ、心配だ。
[出典]:木曾最期 平家物語
「旗をば巻かせて、主のおぼつかなきに、都へ取って返すほどに...」
[訳]:(今井四郎は)旗を巻かせて、主(木曽義仲)が気がかりなので、都へ引き返すときに...
■意味4
心細い、頼りない。
[出典]:
薄雲 源氏物語
「かやうならむ日、ましていかに
おぼつかなからむ。」
[訳]:(姫君を手放してしまったならば)このような(雪が一面を暗くする)日には、これまでよりもどんなに
心細いでしょうか。
■意味5
待ち遠しい、会いたい、もどかしい。
[出典]:伊勢物語
「いかでものごしに対面して、おぼつかなく思ひつめたること、少しはるかさむ。」
[訳]:なんとかして(御簾ごしにでも)お目にかかって、もどかしく思いつめた気持ちを、少し晴らしたい。
■意味6
疎遠である、ご無沙汰している。
[出典]:和泉式部日記
「あさましく心よりほかにおぼつかなくなりぬるを...」
[訳]:(自分でも)あきれるほど思いがけなくご無沙汰してしまったことを...