あいなし
このテキストでは、ク活用の形容詞「
あいなし」の意味、活用、解説とその使用例を記している。
形容詞・ク活用
未然形 | あいなく | あいなから |
連用形 | あいなく | あいなかり |
終止形 | あいなし | ◯ |
連体形 | あいなき | あいなかる |
已然形 | あいなけれ | ◯ |
命令形 | ◯ | あいなかれ |
■意味1
筋が通らない、不都合である。
[出典]:更級日記
「継母なりし人、下りし国の名を宮にもいはるるに、こと人かよはして後も、なほその名をいはるるとききて、親の、『いまはあいなきよしいひにやらむ』とあるに...」
[訳]:継母であった人は、下った先の国の名前を宮中でも呼ばれていましたが、異なった人と結婚した後でも、やはりその名前で呼ばれていると聞いて、父が、「今は(その名前は)不都合である」と(継母に)言うのですが...
■意味2
感心しない、気に入らない。
[出典]:
桐壷 源氏物語
「上達部、上人なども、
あいなく目をそばめつつ、いとまばゆき人の御おぼえなり。」
[訳]:上達部や殿上人たちも、(そのご様子を)
感心しないことだと思って目をそむけており、とても見ていられないほどのご寵愛ぶりです。
■意味3
どうしようもない、無益である。
[出典]:常夏 源氏物語
「なぞ、かくあいなきわざをして、やすからぬもの思ひをすらむ。」
[訳]:どうして、このようなどうしようもないこと(恋)をして、心が落ち着かない思いをするのだろうか。
■意味4
面白くない、つまらない。
[出典]:世に語り伝ふること 徒然草
「世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、多くは皆虚言なり。」
[訳]:世の中に語り伝えることは、真実は面白くないのであろうか、多くは皆作り事である。
■意味5
むやみに、わけもなく。
[出典]:
須磨 源氏物語
「...と歌ひ給へるに、人々おどろきて、めでたうおぼゆるに、忍ばれで、
あいなう起きゐつつ、鼻を忍びやかにかみわたす」
[訳]:...とお詠みになると、(寝ていた)人々ははっと目を覚まして、素晴らしいと思うことに(都を負われた光源氏のことを思うと悲しみを)こらえることができずに、
わけもなく起きたり座ったりしては、次々と鼻をそっとかんでいます。
備考
「あいなう」は「あいなし」の連用形「あいなく」のウ音便。