現代語訳(口語訳)
秦王は章台に座って藺相如と会いました。
藺相如は壁を捧げ持って秦王に献上しました。
秦王は大変喜んで、(壁が手に入ったことを)伝えて、寵愛する女性や側近たちに見せました。
側近たちはみな万歳と叫びました。
藺相如は、秦王が趙に代償として都市を与える意思がないとみてとり、そこで(秦王の前に)進んで言いました。
「壁に傷があります。
(傷がある場所を)王様にお教えさせてください。」と。
秦王は(藺相如に)壁を渡しました。
藺相如はそのまま壁を持って、後ろに退いて柱によりかかり(ましたがその姿は怒りで)髪が逆立って冠を突き上げるほどでした。
秦王に言いました。
「王様は壁を得ようとお思いになり、使者に書状を書いて趙王に届けさせました。
趙王はすべての家臣を招集して(書状の内容について)議論をさせたのです。
家臣皆が言いました。
『秦はどん欲でその国力が強いのをいいことに、嘘を言って壁を要求している。
(その)代償としての都市は、おそらく得ることができないだろう。』と。
議論の内容は、壁を秦に与えることを望むものはありませんでした。
私は思うのです、庶民同士ですら、相手を欺くことはありません。
まして大国ならばなおさら(相手を欺くことはしない)でしょうと。
加えて壁一つ(を与えないこと)で、強国の秦の友好の気持ちに逆らうことはできません。
そこで趙王は、斎戒を五日行い、私に壁を捧げ持たせて、書状を秦の朝廷に届けさせたのです。
その理由は、大国の威厳を畏れて、敬意を払うためです。
いま私が参上してみると、王様は(正式な使者である)私と(正式な客間ではなく)ありきたりな建物でお会いになり、その礼節は大変おごっていらっしゃいます。
壁を手にするやいなや、これを愛人に伝えて、私を愚弄されました。
(これによって)私は、王様が趙王に代償として都市をお与えになる意思がないとみました。
それゆえに再び壁を取り戻したのです。
王様がどうしても私に危害をくわえようとお思いならば、私の頭は、壁とともに柱(に打ち付けて)で粉々になるでしょう。」と。
藺相如は壁を持って、柱をにらみ、今にも柱に打ち付けようとしました。
単語・文法解説
| 城 | 日本でいう城ではなく、城壁に囲まれた町・都市のこと |
| 卻立 | 退いて立つ |
| 布衣之交 | 庶民同士の交際 |
| 況大国乎 | 「況A」で前文をうけて「ましてAならなおさらだ」と訳す |
| 驩 | 友好の気持ち |
| 斎戒 | 身を清めたり神仏に祈ったりすること |
| 列観 | ありきたりな建物 |
| 必欲急臣 | 「必」は、ここでは「どうしても〜ならば」と訳す |