新規登録 ログイン

9_80 その他 / その他

平家物語原文全集「御輿振 3」

著者名: 古典愛好家
Text_level_1
マイリストに追加
平家物語

御輿振

若大衆どもは、

「何条その義あるべき。ただこの門より神輿を入れ奉れ」


といふやから多かりけれども、老僧の中に、三塔一の僉議者と聞こえし、摂津竪者豪運、進み出でて申しけるは、

「もっともさ言はれたり。神輿を先立て参らせて訴訟を致さば、大勢の中をうち破ってこそ、後代の聞えもあらむずれ。就中に、この頼政卿は、六孫王より以降、源氏嫡々の正統、弓矢を取って、いまだその不覚を聞かず。おおよそ武芸にも限らず、歌道にもすぐれたり。近衛院御在位の時、当座の御会のありしに、深山の花といふ題を出だされたりけるを、人々皆詠みわづらひたりしに、この頼政卿、

深山木のそのこずゑとも見えざりし さくらは花にあらはれにけり

といふ名歌仕(つかまつ)って、御感にあづかるほどのやさ男に、時に臨んでいかが情けなう恥辱をば与ふべき。神輿かきかへし奉れや」


と僉議(せんぎ)しければ、数千人の大衆、先陣より後陣まで、皆、尤も(もっとも)尤もとぞ同じける。

さて神輿を、か先立て参らせて、東の陣頭、待賢門(たいけんもん)より入れ奉らむとしければ、狼籍たちまちに出で来て、武士ども散々に射奉る。十禅師の御輿にも、矢どもあまた射立てたり。神人・宮仕射殺され、衆徒多く疵(きず)を蒙(かうぶ)る。をめきさけぶ声、梵天までも聞こえ、堅牢地神も驚くらむとぞおぼえける。大衆、神輿をば、陣頭に振り捨て奉り、泣く泣く本山へ帰りのぼる。
Tunagari_title
・平家物語原文全集「御輿振 3」

Related_title
もっと見る 

Keyword_title

Reference_title
梶原正昭,山下宏明 1991年「新日本古典文学大系 44 平家物語 上」岩波書店

この科目でよく読まれている関連書籍

このテキストを評価してください。

※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。

 

テキストの詳細
 閲覧数 6,103 pt 
 役に立った数 0 pt 
 う〜ん数 0 pt 
 マイリスト数 0 pt 

知りたいことを検索!

まとめ
このテキストのまとめは存在しません。