蜻蛉日記
五月になりぬ。菖蒲の根ながきなど
五月になりぬ。
「菖蒲の根ながき」
など、ここなる若き人さはげば、つれづれなるにとりよせて、つらぬきなどす。
「これ、かしこにおなじほどなる人にたてまつれ」
などいひて、
かくれぬにおひそめにけりあやめ草 しる人なしにふかきしたねを
とかきて、中にむすびつけて、大夫のまゐるにつけてものす。かへり事、
あやめぐさねにあらはるる今日だには いつかとまちしかひもありけれ
大夫、いまひとつとかくして、かのところに
わがそではひくとぬらしつあやめ草 人のたもとにかけてかはかせ
御かへりごと、
ひきつらんたもとはしらずあやめ草 あやなきそでにかけずもあらなん
といひたなり。