蜻蛉日記
かくてのみ思ふになほいとあやし
かくてのみ思ふに、なほいとあやし。めづらしき人にうつりてなどもなし、にはかにかかることを思ふに、心ばへの知りたる人の
「うせ給ひぬる小野の宮の大臣(おとど)の御召人(めしうど)どもあり、これらをぞ思ひかくらん。近江ぞあやしきことなどありて、色めくものなめれば、それらにここにかよふと知らせじと、かねてたちおかむとならん」
といへば、きく人
「いでや、さらずとも、かれらいと心やすしときく人なれば、なにか、さわざわざしうかまへたまはずともありなん」
などぞいふ。
「もしさらずは、先帝のみこたちがならん」
と疑ふ。