雪のいと高う降りたるを
雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子まゐりて、炭櫃(すびつ)に火おこして、物語などして、あつまりさぶらふに、
「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ」
とおほせらるれば、御格子あげさせて、御簾(みず)を高くあげたれば、笑はせたまふ。人々も、
「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそ寄らざりつれ。なほ、この宮の人にはさべきなめり」
と言ふ。
陰陽師のもとなる
陰陽師のもとなる小童こそ、いみじうものは知りたれ。祓(はらへ)などしに出でたれば、祭文などよむを、人はなほこそ聞け、ちうとたち走りて、
「酒、水、いかけさせよ」
とも言はぬに、しありくさまの、例知り、いささか主にものいはせぬこそ、うらやましけれ。さらむものがな使はむ、とこそおぼゆれ。