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枕草子 原文全集「関白殿、二月廿一日に」 其の二

著者名: 古典愛好家
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御輿はとくいらせ給ひて、しつらひゐさせ給ひにけり。

「ここに呼べ」


と仰せられければ、

「いづら、いづら」


と右京小左近などいふ若き人々待ちて、まゐる人ごとに見れどなかりけり。下るるにしたがひて、四人づつ、御前にまゐりつどひてさぶらふに、

「あやし。なきか。いかなるぞ」


と仰せられけるも知らず、あるかぎり下りはててぞからうじて見つけられて、

「さばかり仰せらるるに、をそくは」


とて、ひきゐてまゐるに、見れば、いつの間にかう年ごろの御すまひのやうに、おはしましつきたるにか、とをかし。

「いかなれば、かう、なきかとたづぬばかりまでは見えざりつる」


と仰せらるるに、ともかくも申さねば、もろともに乗りたる人、

「いとわりなしや。最果の車に乗りて侍らむ人は、いかでかとくはまゐり侍らむ。これも御厨子(みづし)がいとほしがりて、ゆづりて侍るなり。くらかりつるこそわびしかりつれ」


とわぶわぶ啓するに、

「行事するものの、いとあしきなり。また、などかは、心しらざらむ人こそはつつまめ、右衛門などいはむかし」


と仰せらる。

「されど、いかでかは走り先立ち侍らむ」


などいふ、かたえの人、にくしと聞くらむかし。

「さまあしうて、高う乗りたりとも、かしこかるべきことかは。定めたらむさまの、やむごとなからむこそよからめ」


と、ものしげにおぼしめしたり。

「下り侍るほどの、いと待ち遠に、苦しければにや」


とぞ申しなほす。
 

御経のことにて、明日わたらせ給はむとて、今宵まゐりたり。南の院の北面にさしのぞきたれば、高杯(たかつき)どもに火をともして、二人、三人、三四人、さべきどち屏風ひきへだてたるもあり。き丁など隔てなどもしたり。またさもあらで、集まりゐて衣どもとぢかさね、裳の腰さし、化粧するさまはさらにもいはず、髪などいふもの、明日よりのちはありがたげに見ゆ。寅の時になむわたらせ給ふべかなる。

「などか今までまゐり給はざりつる。扇持たせて、もとめきこゆる人ありつ」


と告ぐ。
 
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渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店
松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館
萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 下」 新潮社

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