新規登録 ログイン

9_80 その他 / その他

枕草子 原文全集「関白殿、二月廿一日に」 其の三

著者名: 古典愛好家
Text_level_1
マイリストに追加
関白殿、二月廿一日に

其の二

おはしまし着きたれば、大門のもとに、高麗、唐土の楽して、獅子、狛犬(こまいぬ)をどり舞ひ、乱声の音、鼓の声にものもおぼえず。こはいきての仏の国などに来(き)にけるにやあらむと、空に響きあがるやうにおぼゆ。
 

内に入りぬれば、色々の錦のあげばりに、御簾いと青くかけわたし、屏幔どもひきたるなど、すべてすべてさらにこの世とおぼえず。御桟敷(さじき)にさし寄せたれば、またこの殿ばら立ち給ひて、

「とう下りよ」


とのたまふ。乗りつる所だにありつるを、いますこしあかう顕証(けそう)なるに、つくろひ添へたりつる髪も唐衣の中にてふくだみ、あやしうなりたらむ、色の黒さ赤ささへ見えわかれぬべきほどなるが、いとわびしければ、ふともえ下りず。

「まづ後なるこそは」


などいふほどに、それもおなじ心にや。

「しぞかせ給へ。かたじけなし」


などいふ。

「はぢ給ふか」


など笑ひて、からうじて下りぬれば、寄りおはして、

「『むねかたなどに見せで、かくしておろせ』と、宮の仰せらるれば、来(き)たるに、思ひぐまなく」


とて、ひきおろして、ゐてまゐり給ふ。さ聞こえさせ給ひつらむと思ふも、いとかたじけなし。
 
1ページへ戻る
前のページを読む
1/4
次のページを読む

Tunagari_title
・枕草子 原文全集「関白殿、二月廿一日に」 其の三

Related_title
もっと見る 

Keyword_title

Reference_title
渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店
萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 下」 新潮社
松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館

この科目でよく読まれている関連書籍

このテキストを評価してください。

※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。

 

テキストの詳細
 閲覧数 9,216 pt 
 役に立った数 0 pt 
 う〜ん数 0 pt 
 マイリスト数 0 pt 

知りたいことを検索!