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枕草子 原文全集「二月つごもり比に」

著者名: 古典愛好家
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二月つごもり比に

二月つごもり比に、風いたう吹きて、空いみじうくろきに、雪少しうち散りたるほど、黒戸に主殿司(とものづかさ)きて、

「かうてさぶらふ」


といへば、よりたるに、

「これ、公任の宰相殿の」


とてあるを、見れば懐紙に、
  
少し春ある心地こそすれ

とあるは、げにけふのけしきにいとようあひたる、これが本はいかでかつくべからむ、と思ひわづらひぬ。

「たれたれか」


と問へば、

「それそれ」


といふ。みないとはづかしきなかに、宰相の御いらへを、いかでかことなしびにいひ出でむ、と心ひとつにくるしきを、御前に御覧ぜさせむとすれど、上のおはしまして大殿籠りたり。主殿司は、

「とくとく」


と言ふ。げにをそうさへあらむは、いととりどころなければ、さはれとて、
  
空寒み花にまがへてちる雪に

と、わななくわななくかきてとらせて、いかに思ふらむとわびし。


これがことを聞かばやと思ふに、そしられたらば聞かじとおぼゆるを、

「俊賢の宰相など、『なほ内侍に奏してなさむ』となむ、定め給ひし」


とばかりぞ、左兵衛督の中将におはせし、かたり給ひし。


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・枕草子 原文全集「二月つごもり比に」

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松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館
萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 上」 新潮社
渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店

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