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枕草子 原文全集「草の花は」

著者名: 古典愛好家
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草の花は

草の花は撫子(なでしこ)。

唐のはさらなり、大和のもいとめでたし。

女郎花(をみなへし)。桔梗(ききやう)。朝顔。刈萱(かるかや)。菊。壺すみれ。


竜胆は、枝さしなどもむつかしけれど、こと花どもの、みな霜がれたるに、いとはなやかなる色あひにてさし出でたる、いとをかし。

また、わざと取りたてて人めかすべくもあらぬさまなれど、かまつかの花、らうたげなり。

名もうたてあなる。

雁の来る花とぞ文字には書きたる。

かにひの花、色はこからねど藤の花といとよく似て、春秋と咲くがをかしきなり。


萩、いと色ふかう、枝たをやかに咲きたるが、朝露にぬれて、なよなよとひろごり伏したる。

さ牡鹿の、わきて立ちならすらむも、心ことなり。八重山吹。


夕顔は、花のかたちも朝顔に似て、言ひつづけたるに、いとをかしかりぬべき花の姿に、実のありさまこそいとくちをしけれ。

などさ、はた生ひいでけむ。

ぬかづきといふものの、やうにだにあれかし。

されどなを、夕顔といふ名ばかりはおかし。

しもつけの花。蘆(あし)の花。


これに薄(すすき)を入れぬ、いみじうあやしと人いふめり。

秋の野のおしなべたるをかしさは、薄こそあれ。

穂さきの蘇枋(すはう)にいとこきが、朝露にぬれてうちなびきたるは、さばかりの物やはある。

秋のはてぞ、いと見所なき。

色々に乱れ咲きたりし花の、かたもなく散りたるに、冬の末まで、頭(かしら)のいとしろくおほどれたるも知らず、むかし思ひで顔に、風になびきてかひろぎ立てる、人にこそいみじう似たれ。

よそふる心ありて、それをしもこそ、あはれと思ふべけれ。



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・枕草子 原文全集「草の花は」

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松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館
渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店
萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 上」 新潮社

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