よろこび奏するこそ
よろこび奏するこそをかしけれ。
うしろをまかせて、御前の方に向かひて立てるを。
拝し、舞踏し、さわぐよ。
今の内裏の東をば
今の内裏の東をば北の陣と言ふ。梨の木のはるかに高きを、いく尋(ひろ)めあらむ、などいふ。
権中将「もとよりうち切りて、定澄僧都の枝扇(えだあうぎ)にせばや」とのたまひしを、山階寺(しなでら)の別当になりてよろこび申す日、近衛司にてこの君の出でたまへるに、高きけいしをさへ履きたれば、ゆゆしうたかし。
出(いで)ぬる後に「など、その枝扇(えだあうぎ)をば持たせたまはぬ」と言へば、「もの忘れせぬ」と笑ひたまふ。
「定澄僧都に袿(うちぎ)なし。すくせ君に衵(あこめ)なし」と言ひけん人こそをかしけれ。