「あり/有り/在り」の意味・活用・使用例【ラ行変格活用】
このテキストでは、ラ行変格活用の動詞「
あり/有り/在り」の意味、活用、解説とその使用例を記している。
ラ行変格活用
未然形 | あら |
連用形 | あり |
終止形 | あり |
連体形 | ある |
已然形 | あれ |
命令形 | あれ |
■意味1:自動詞
存在する、(物が)ある、(人が)いる。
[出典]:
東下り 伊勢物語
「昔、男
ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、東の方に住むべき国求めにとて行きけり。」
[訳]:昔、男が
いました。その男は、自分のことを必要のない者と思い込んで、京にはおるまい、東の方で住むのに適した国を探しに(行こう)と思って出かけていきました。
■意味2:自動詞
生きている、無事でいる。
[出典]:
東下り 伊勢物語
「名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人は
ありやなしやと」
[訳]:「都」という名を持っているのなら、さあ尋ねよう。都鳥よ、私の思う人は
無事でいるのかいないのか。
■意味3:自動詞
(その場に)
居合わせる、いる、生活する。
[出典]:
かぐや姫の昇天 竹取物語
「望月の明かさを十合わせたるばかりにて、
ある人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。」
[訳]:満月を10こ合わせたほど(の明るさ)で、(その場に)
居合わせた人の毛穴まで見えるほどでした。
■意味4:自動詞
時間が経過する。
[出典]:
蓬莱の玉の枝 竹取物語
「三日ばかり
ありて漕ぎ帰りたまひぬ。」
[訳]:三日ほど
経って、漕ぎ戻っていらっしゃいました。
■意味5:自動詞
〜とおっしゃる、〜と書いてある。
※この用法の場合「引用文+と+あり」の形で用いられる。
[出典]:蜻蛉日記
「『大夫はいづこにいきたりつるぞ』とあれば...」
[訳]:「大夫はどこに行ったのですか」とおっしゃるので...
■意味6:自動詞
優れている。
[出典]:若紫
源氏物語
「御供に声
ある人して歌はせ給ふ。」
[訳]:お供の中で声の
優れている者に歌わせなさる。
■意味7:自動詞
栄える。
※この用法の場合「世にあり」の形で用いられる。
[出典]:平家物語
「人の世にあればとて、すずろにすさまじき事をもし、いふまじき事をもいふは...」
[訳]:人が世に栄えているからといって、むやみやたらにとんでもない事をし、言うべきでない事を言えば...
■意味8:補助動詞
〜である。
※この用法の場合、「〜にあり、〜とあり、〜ぞあり、〜にてあり」などの形で用いられることが多い。
[出典]:馬盗人 今昔物語
「頼義見るに、まことによき馬にてありければ...」
[訳]:頼義が(その馬を)見ると、実にすばらしい馬であったので...
■意味9:補助動詞
(〜の状態で)
ある、いる。
※この用法の場合、形容詞や形容動詞の連用形、助動詞「ず」「べし」の連用形、副詞「さ」「かく」などに付いて用いられることが多い。
[出典]:
筒井筒 伊勢物語
「昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとにいでて遊びけるを、おとなになりにければ、男も女も恥ぢかはして
ありけれど...」
[訳]:昔、地方をまわって生計をたてていた人の子どもが、井戸の辺りに出て遊んでいたのですが、(2人とも)大人になったので、男も女も互いに恥ずかしがって
いたのですが...
■意味10:補助動詞
お〜になる、ご〜になる。
※この用法の場合、「お〜あり、御〜あり」などの形で用いられる。
[出典]:殿下乗合 平家物語
「一院御出家あり。」
[訳]:一院はご出家になります。