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源氏物語『御法・紫の上の死』(宮も帰り給はで〜)の現代語訳と解説

著者名: 走るメロス
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源氏物語『御法』

ここでは、源氏物語の『御法』の章から、「宮も、帰り給はで、かくて見奉り給へるを〜」から始まる部分の現代語訳・口語訳とその解説を記しています。書籍によっては「紫の上の死」、「荻の上露」と題するものもあるようです。

※前回のテキスト:「風すごく吹き出でたる夕暮に〜」現代語訳と解説



※源氏物語は平安中期に成立した長編小説です。一条天皇中宮の藤原彰子に仕えた紫式部が作者とするのが通説です。
原文

宮も、帰り給はで、かくて見奉り給へるを、限りなく思す。誰も誰も、ことわりの別れにてたぐひあることとも思されず、めづらかにいみじく、明けぐれの夢に惑ひ給ふほど、さらなりや。さかしき人おはせざりけり。さぶらふ女房なども、ある限り、さらにものおぼえたるなし。院は、まして思ししずめむ方なければ、大将の君近く参り給へるを、御几帳のもとに呼び寄せ奉り給ひて、


「かく今は限りのさまなめるを。年ごろの本意ありて思ひつること、かかるきざみにその思ひ違へてやみなむがいといとほしきを。御加持に候ふ大徳たち、読経の僧なども、皆声やめて出でぬなるを、さりとも、立ち止まりてものすべきもあらむ。この世にはむなしき心地するを、仏の御しるし、今はかの冥き途のとぶらひにだに頼み申すべきを、頭おろすべきよしものし給へ。さるべき僧、誰かとまりたる。」


などのたまふ御けしき、心強く思しなすべかめれど、御顔の色もあらぬさまに、いみじく堪へかね、御涙のとまらぬを、ことわりに悲しく見奉り給ふ。

つづき:「御物の怪などの〜」の現代語訳と解説

現代語訳(口語訳)

中宮も、お帰りにならないで、このように(紫の上を)お看取り申されたのを、(光源氏は)この上のないことだとお思いになります。誰もが世の習いの別れ(死別)で誰にでもあることだとはお思いにならず、めったにないひどいことだと、夜が明けきる前の薄暗い時間帯にみる夢かとお惑いなさるのは、言うまでもないことです。気がしっかりしている人はいらっしゃいませんでした。お側にお仕え申し上げる女房たちも、居合わせた者で、分別のあるものはまったくおりませんでした。院は、なおさら、お気持ちを落ち着かせようがないので、大将の君がお側に参上なさったのを、御几帳のところへお呼び寄せ申されて、


このように今はご臨終の様子なようです。長年(紫の上が)願っていたこと(出家すること)を、このような機会にその願いに背いて終わってしまうことが気の毒です。御加持のために集まった高僧たちや、読経をする僧なども、皆声をあげるのをやめて出てしまったようですが、そうであっても、立ち止まって(残って)経をあげる僧もいるでしょう。この世では効果のない気がしますが、仏のご利益は、今となってはあの冥土への道案内としてだけでもお頼み申し上げなければならないので、(紫の上の)髪をおろす(出家する)ことをお計らいになって下さい。しかるべき僧は、誰か残っていますか


などとおっしゃる(光源氏の)お姿は、気を強くお思いのようですが、お顔の色もいつもと違っている様子で、ひどく(悲しみに)耐えかね、お涙がとまらないのを、無理も無いことだと(大将の君は)見申し上げなさるのです。

つづき:「御物の怪などの〜」の現代語訳と解説

次ページ:品詞分解と単語・文法解説

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佐竹昭広、前田金五郎、大野晋 編1990 『岩波古語辞典 補訂版』 岩波書店
『教科書 精選古典B 古文編』 三省堂

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