大鏡『肝だめし』
このテキストでは、
大鏡の一節『肝だめし』の「四条の大納言のかく何事もすぐれ、めでたくおはしますを〜」から始まる部分の現代語訳・口語訳とその解説を記しています。
※大鏡は平安時代後期に成立したとされる歴史物語です。藤原道長の栄華を中心に、宮廷の歴史が描かれています。
原文
四条の大納言のかく何事もすぐれ、
めでたくおはしますを、大入道殿、
「
いかでか、かからむ。
うらやましくもあるかな。わが子どもの、影だに踏むべくもあらぬこそ、
くちをしけれ。」
と申させ給ひければ、中関白殿、粟田殿などは、げにさもとや思すらむと、
恥づかしげなる御気色にて、ものも
のたまはぬに、この
入道殿は、いと若くおはします御身にて、
「影をば踏まで、面をやは踏まぬ。」
とこそ仰せられけれ。まことにこそさおはしますめれ。内大臣殿をだに、近くてえ見たてまつり給はぬよ。
つづき:
『さるべき人は、とうより〜』の現代語訳と解説
現代語訳(口語訳)
四条の大納言がこのように何事にも優れて、りっぱでいらっしゃるご様子を、大入道殿は
「どうして、(四条の大納言は)このように優れているのだろうか。うらやましいものだなぁ。私の子供たちは、(四条の大納言の)影を踏むこともできない(ほど遅れをとっている)ことが、情けない。」
と申し上げなさったところ、中関白殿や粟田殿などは、本当に(父上が)お思いになっていらっしゃるとおりであろうと、恥じ入っているご様子で、一言もおっしゃらないのですが、この入道殿は、大変お若くいらっしゃる身でありながら
「(四条の大納言)の影は踏まないが、顔を踏まないことがあろうか(いや、踏んでやる)」
と仰られました。(今の入道殿は)本当にそのような身分でいらっしゃいます。(今では四条の大納言は、入道殿はおろか入道殿の息子である)内大臣殿ですら近くで拝見することができない(ぐらい四条の大納言と入道殿の身分の差は開いてしまって)でいらっしゃいます。
つづき:
『さるべき人は、とうより〜』の現代語訳と解説
品詞分解
品詞分解:
大鏡『肝だめし(四条の大納言のかく何事も〜)』の品詞分解
単語解説
四条の大納言 | 藤原公任 |
めでたく | 「立派である」。めでたしの連用形 |
大入道殿 | 藤原兼家 |
うらやましく | 「うらやましい」うらやましの連用形 |
くちをしけれ | 情けない。「くちをし」の已然形 |
中関白殿、粟田殿 | 藤原兼家の子供たち。このシーンでは藤原道長をあわせて3兄弟が登場している |
入道殿 | 藤原道長。大入道殿と混同しないように気をつける |
面をやは踏まぬ | 「やは」は係助詞で反語を表す |