韓非子『侵官之害』(官を侵すの害)の原文・書き下し文・現代語訳と解説
このテキストでは、
韓非子の一節、二柄の章から『
侵官之害』の原文(白文)、書き下し文、わかりやすい現代語訳(口語訳)とその解説を記しています。
韓非子とは
『
韓非子』(かんぴし)は、紀元前250年ごろの中国の思想家、
韓非(かん ぴ)の著書です。
原文(白文)
昔者、韓昭候酔而寝。
典冠者見君之寒也、故加衣於君之上。
覚寝而説、問左右曰、
「誰加衣者。」
左右対曰、
「典冠。」
君因兼罪典衣与典冠。
其罪典衣、以為失其事也。
其罪典冠、以為超其職也。
非不悪寒也、以為侵官之害甚於寒。
故明主之
畜臣、臣不得越官而有功、不得陳言而不当。
越官則死、不当則罪。
守業其官、所言者貞也、則群臣不得
朋党相為矣。
書き下し文
昔者(むかし)、韓の昭侯酔ひて寝(い)ぬ。
典冠(てんかん)の者君の寒きを見るや、故に衣を君の上に加ふ。
寝より覚めて説(よろこ)び、左右に問ひて曰はく、
「誰か衣を加へし者ぞ。」と。
左右対(こた)へて曰はく、
「典冠なり。」と。
君因りて典衣と典冠とを兼ね罪せり。
其の典衣を罪せしは、以て其の事を失すと為せばなり。
其の典冠を罪せしは、以て其の職を越ゆと為せばなり。
寒きを悪(にく)まざるに非ず、以て官を侵すの害は寒きよりも甚だしと為せばなり。
故に明主の臣を蓄(やしな)ふや、臣は官を越えて功有るを得ず、言を陳(の)べて当たらざるを得ず。
官を越ゆれば則ち死(ころ)され、当たらざれば則ち罪せらる。
業を其の官に守り、言ふ所の者貞なれば、則ち群臣は朋党して相為すを得ず。
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