現代語訳(口語訳)
家臣たちは皆驚きました。
急に思いがけないことが起こったので、冷静さを失っています。
そして、秦の法律には、家臣で殿上に務める者たちは、わずかな武器を持つことも許されていませんでした。
護衛の者たちは武器を持って殿下に並んでいます。
(殿上に上がれという)命令がなければ殿上に上ることはできません。
急なことなので、(殿下にいる)護衛の兵を召す余裕がありませんでした。
そのために荊軻は秦王を追ったのです。
急なことなので(家臣たちは)慌てふためくばかりです。
荊軻を撃つ武器がないので、(家臣たちは)一緒になって素手で(荊軻を)叩きました。
このとき(秦王の)侍医の夏無且が捧げ持っていた薬囊を荊軻に投げつけました。
秦王はその時、柱を回って逃げていました。
急なことなので慌てふためいています。
どうしてよいかわからずにいます。
左右の側近たちは言いました。
「王様、剣を剣を背負ってください。」と。
(秦王は)剣を背負い、とうとう抜いて荊軻を撃ち、その左ももを斬ったのです。
荊軻は倒れました。
そこで匕首を引いて秦王に投げつけました。
(しかし)当たりませんでした。
(匕首は)銅の柱に当たったのです。
秦王はふたたび荊軻を撃ちました。
荊軻は八つの傷を受けました。
荊軻は(暗殺が)うまくいかないことを悟り、柱に寄りかかって笑い、両足を前に投げ出して座り罵って言いました。
「計画がうまくいかなかった理由は、秦王を行きたまま脅し、(侵略した燕の土地を返還する)約束を取り付けて太子に報告したいと思ったからだ。」と。
ここで左右の家臣たちが進み出て荊軻を殺しました。
秦王はしばらくの間、不機嫌でした。
単語・文法解説
卒起不意 | 「卒」は「急に」を意味する |
尺寸之兵 | 「尺寸」は「わずかの」、「兵」は「武器」を意味する |
惶急 | 慌てふためく様子 |
侍医 | 天皇や貴族つきの医者 |
箕踞 | 両足を前に投げ出して座ること |