蜻蛉日記
かくてなかなかなる身の便なきにつつみて
かくてなかなかなる身の便(び)なきにつつみて、世人のさわぐおこなひもせで、二七日はすぎぬ。
十四日ばかりにふるきうへのきぬ、
「これ、いとようして」
などいひてあり。
「着るべき日は」
などあれど、いそぎも思はであるに、手結(てつかひ)のつとめて
「おそし」
とあるに、
ひさしとはおぼつかなしやからごろも うちきてなれんさておくらせよ
とあるに、たがひて、これより文(ふみ)もなくてものしたれば、
「これかうよろしかめり。まをならぬがわろさよ」
とあり。ねたさにかくものしけり。
わびてまたとくとさわげどかひなくて ほどふるものはかくこそありけれ
とものしつ。それよりのち、
「司召(つかさめし)にて」
などて音なし。