蜻蛉日記
かく、おもておもてにとざまかくざまに言ひなさるれど
かく、おもておもてにとざまかくざまに言ひなさるれど、我が心はつれなくなんありける。あしともよしともあらんをいなむまじき人は、此(この)ごろ京に物したまはず。文(ふみ)にて
「かくてなん」
とあるに、
「はたよかなり。しのびやかにて、さてしばしもおこなはるる」
とあれば、いと心やすし。人はなほ、すかしがてらにさも言はるるにこそあらめ、かぎりなき腹をたつと、かかるところを見おきてかへりにしままに、いかにともをとづれ来(こ)ず。いかにもいかにもなりなばしるべくやはありけるなどおもへば、これよりふかく入るとも、とぞおぼえける。