船上の正月
元日
元日、なほ同じ泊なり。
白散を、あるもの、夜の間とて、船屋形にさしさめりければ、風に吹きならさせて、海に入れて、え飲まずなりぬ。芋茎(いもし)、荒布も、歯固もなし。かうやうのものなき国なり。求めしもおかず。ただ、押鮎の口をのみぞ吸ふ。この吸ふ人々の口を、押鮎もし思ふやうあらむや。
「今日は都のみぞ思ひやらるる。小家の門の注連縄(しりくめなわ)の鯔(なよし)の頭、柊ら、いかにぞ」
とぞ言ひあへる。
一月二日
二日。なほ、大湊に泊れり。
講師、物、酒、おこせたり。
一月三日
三日。同じところなり。
もし風波の、しばしと惜しむ心やあらむ。心許(こころもと)なし。
一月四日
四日。風吹けば、え出でたたず。
まさつら、酒、よき物たてまつれり。このかうやうに物もて来る人に、なほしもえあらで、いささけわざせさす。物もなし。にぎははしきやうなれど、まくる心地す。
一月五日
五日。風波止まねば、なほ、同じところにあり。
人々、たえずとぶらひに来(く)。
一月六日
六日。昨日のごとし。