をかしと思ふ歌を
をかしと思ふ歌を、草子などに書きてをきたるに、いふかひなき下衆の、うちうたひたるこそ、いと心憂けれ。
よろしき男を
よろしき男を、下衆女などのほめて、
「いみじうなつかしうおはします」
などいへば、やがて思ひおとされぬべし。そしらるるはなかなかよし。下衆にほめらるるは、女だにいとわるし。また、ほむるままにいひそこなひつるものは。
左右の衛門の尉を
左右の衛門の尉(ぞう)を判官といふ名をつけて、いみじうおそろしう、かしこきものに思ひたるこそ。夜行し、細殿などに入りふしたる、いと見苦しかし。布の白袴、き丁にうちかけ、うへのきぬの、長くところせきをわがねかけたる、いとつきなし。太刀のしりに、ひきかけなどして立ちさまよふは、されどよし。
青色をただつねに着(き)たらば、いかにをかしからむ。
「見し有明ぞ」
と誰いひけむ。