六位蔵人などは
六位蔵人などは、思ひかくべきことにもあらず。かうぶり得て、なにの権守、大夫などいふ人の、板屋などの狭き家持たりて、また、小檜垣(こひがき)などいふもの新しくして、車宿に車ひきたて、前近く一尺ばかりなる木生(お)ほして、牛つなぎて、草など飼はするこそ、いとにくけれ。庭いときよげにはき、紫革して伊予簾(いよす)かけわたし、布障子はらせて住まゐたる。夜は
「門つよくさせ」
など、ことおこなひたる、いみじうをひさきなう、心づきなし。
おやの家、舅(しうと)はさらなり、をぢ、兄などの住まぬ家、そのさべき人なからむは、おのづから、むつまじくうち知りたらむ受領の国へいきていたづらならむ、さらずは、院、宮ばらの、屋あまたあるに住みなどして、司待ち出でてのち、いつしかよき所たづねとりて、住みたるこそよけれ。