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枕草子 原文全集「関白殿、二月廿一日に」 其の一

著者名: 古典愛好家
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御前にゐさせ給ひて、ものなど聞こえさせ給ふ。御いらへなどのあらまほしさを、里なる人などにはつかに見せばや、とみたてまつる。女房など御覧じわたして、

「宮、なにごとをおぼしめすらむ。ここらめでたき人々を据ゑ並めて、御覧ずるこそはうらやましけれ。一人わるきかたちなしや。これみな家々のむすめどもぞかし。あはれなり。ようかへりみてこそ候はせ給はめ。さても、この宮の御心をば、いかに知りたてまつりて、かくはまゐりあつまり給へるぞ。いかにいやしく、ものをしみせさせ給ふ宮とて、我は宮の生まれさせ給ひしより、いみじう仕うまつれど、まだおろしの御衣一つ給はらず。何か、しりうごとには聞こえむ」


などのたまふがをかしければ、笑ひぬれば、

「まことぞ。をこなりと見て、かくわらひいまするがはづかし」


などのたまはするほどに、内より式部の丞なにがしまゐりたり。


御文は、大納言殿とりて殿にたてまつらせ給へば、ひきときて、

「ゆかしき御文かな。ゆるされ侍らばあけてみ侍らむ」


とはのたまはすれど、

「あやふしとおぼいためり。かたじけなくもあり」


とてたてまつらせ給ふを、とらせ給ひても、ひろげさせ給ふやうにもあらずもてなさせ給ふ、御用意ぞありがたき。御簾の内より、女房褥(しとね)さしいでて、三四人みき丁のもとにゐたり。

「あなたにまかりて、禄(ろく)のことものし侍らむ」


とてたたせ給ひぬるのちぞ、御文御覧ずる。御返(かへり)、紅梅の薄様にかかせ給ふが、御衣のおなじ色ににほひ通ひたる、なほ、かくしもおしはかりまゐらする人はなくやあらむ、とぞくちをしき。今日のはことさらにとて、殿の御方より禄はいださせ給ふ。女の装束に紅梅の細長そへたり。「さかな」などあれば、酔はさまほしけれど、

「今日はいみじきことの行事に侍り、あが君、ゆるさせ給へ」


と、大納言殿にも申してたちぬ。
 
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松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館
渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店
萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 下」 新潮社

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