五月四日の夕つ方
五月四日の夕つ方、青き草おほくいとうるはしく切りて、左右(ひだりみぎ)になひて、赤衣着たる男のゆくこそをかしけれ。
賀茂へまゐる道に
賀茂へまゐる道に、田植うとて、女の、あたらしき折敷(おしき)のやうなるものを笠にきて、いとおほうたちて、歌を歌ふ。おれふすやうに、また、何事するともみえで、うしろざまにゆく。いかなるにかあらむ、をかしとみゆるほどに、ほととぎすをいとなめう歌ふ、聞くにぞ心うき。
「ほととぎす、おれ、かやつよ。おれなきてこそ、我は田植うれ」
と歌ふを聞くも、いかなる人か、
「いたくななきそ」
とはいひけむ。仲忠が童生ひいひおとす人と、ほととぎす、鴬におとるといふ人こそ、いとつらうにくけれ。