蜻蛉日記
三月十五日に院の小弓はじまりて
三月十五日に院の小弓はじまりて出居(いでゐ)などののしる。前しりへわきてさうぞけば、そのこと大夫により、とかうものす。その日になりて、
「上達部(かんだちめ)あまた、今年やむごとなかりけり。小弓(こゆみ)おもひあなづりて、念ぜざりけるを、いかならんとおもひたれば、最初(さいそ)にいでて諸矢(もろや)しつ。つぎつぎあまたのかず、この矢になん刺して勝ちぬる」
などののしる。さて又二三日すぎて、
「大夫の諸矢(もろや)はかなしかりしかな」
などあれば、まして我も。