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枕草子 原文全集「はづかしきもの」

著者名: 古典愛好家
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はづかしきもの

はづかしきもの。男の心のうち。いざとき夜居の僧。みそか盗人の、さるべき隈にゐて見るらむを、誰かは知らむ、くらきまぎれに、忍びて物ひきとる人もあらむかし。そはしも、おなじ心にをかしとや思ふらむ。


夜居の僧は、いとはづかしきものなり。わかき人々あつまりゐて、人の上をいひ、笑ひそしり、にくみもするを、つくづくと聞きあつむる、いとはづかし。

「あなうたて、かしがまし」


など、おまへちかき人などのけしきばみいふをも聞き入れず、いひいひのはては、みなうちとけてぬるもいとはづかし。


男は、うたて思ふさまならず、もどかしう心づきなきことなどありと見れど、さしむかひたる人を、すかし頼むるこそ、はづかしけれ。まして、情けあり、好ましう、人に知られたるなどは、おろかなりと思はすべうももてなさずかし。心のうちにのみならず、またみな、これがことはかれにいひ、かれが事はこれにいひきかすべかめるも、我がことをば知らで、かう語るは、なほこよなきなめりと思やすらむ。いで、されば、すこしも思ふ人にあへば、心はかなきなめりと見えて、いとはづかしうもあらぬぞかし。いみじうあはれに、心苦しう、見すてがたき事などを、いささかなにとも思はぬも、いかなる心ぞとこそあさましけれ。さすがに、人の上をもどき、ものをいとよくいふさまよ。ことにたのもしき人なき宮仕人などをかたらひて、ただならずなりぬるありさまを、きよく知らで、などもあるは。




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・枕草子 原文全集「はづかしきもの」

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萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 上」 新潮社
渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店
松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館

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