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蜻蛉日記原文全集「しのびたるかたに、いざ」

著者名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

しのびたるかたに、いざ

「しのびたるかたに、いざ」


とさそふ人もあり、

「なにかは」


とてものしたれば、人おほうまうでたり。誰としるべきにもあらなくに、我ひとりくるしう、かたはらいたし。祓(はらへ)などいふところに、垂水(たるみ)いふかたなうしたり。をかしうもあるかなと見つつかへるに、おとななるものの、わらは装束して、髪をかしげにてゆくあり。みれば、ありつる氷を単衣(ひとへ)のそでにつつみ持たりて食ひゆく。ゆえあるものにやあらんと思うほどに、わがもろともなる人、ものをいひかけたれば、氷(ひ)くくみたる声にて、

「丸をのたまふか」


といふをきくにぞ、なをものなりけりとおもひぬる。かしらついて、

「これは食はぬ人は思ふことならざるは」


といふ。

「まがまがしう、さいふものの袖ぞぬらすめる」


とひとりごちて、又思ふやう、

わがそでのこほりははるもしらなくに 心とけても人の行かな


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・蜻蛉日記原文全集「しのびたるかたに、いざ」

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長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店
The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library http://etext.lib.virginia.edu/japanese/

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