池は
池は、かつまたの池。いはれの池。にゑのの池。初瀬(はつせ)に詣でしに、水鳥のひまなくゐてたちさわぎしがいとをかしう見えしなり。
水なしの池こそ、あやしうなどてつけけるならむとて問ひしかば、「五月など、すべて雨いとう降らむとする年は、この池に水といふものなむなくなる。また、いみじう照るべき年は、春のはじめに水なむ多くいづる」と言ひしを、「無下になく乾きてあらばこそさも言はめ、いづる折もあるを、一すじにもつけけるかな」といはまほしかりしか。
さるさはの池は、うねべの身なげたるを聞しめして、行幸などありけむこそ、いみじうめでたけれ。寝くたれ髪をと、人丸(人麿)が詠みけむ程など思ふに、言ふもおろかなり。
おまへの池、また、何の心にてつけけるならむとゆかし。かがみの池。さ山の池は、三稜草(みくり)と言ふ歌のをかしきがおぼゆるならむ。
こひぬまの池。はらの池は、「玉藻なかりそ」と言ひたるもをかしうおぼゆ。