心ときめきするもの
心ときめきするもの。雀の子飼ひ。ちごあそばする所の前わたる。
よきたき物たきて、ひとり伏したる。唐鏡(からかがみ)の少し暗き見たる。よき男の、車とどめて案内(あない)し問はせたる。
かしら洗ひ、化粧(けさう)じて、かうばしうしみたる衣などきたる。ことに見る人なき所にても、心のうちはなほいとをかし。待人(まつひと)などのある夜。雨の音、風の吹きゆるがすも、ふとおどろかる。
過ぎにし方恋しきもの
過ぎにし方恋しきもの。かれたる葵(あふひ)。雛(ひいな)あそびの調度。
二藍、葡萄染(えびぞめ)などのさいでの、押しへされて草子(さうし)の中などにありける、見つけたる。また、折からあはれなりし人の文、雨など降りつれづれなる日さがし出(いで)たる。去年のかはほり。