はじめに
このテキストでは、
万葉集に収録されている歌「
憶良らは今は罷らむ子泣くらむ それその母も我を待つらむそ」の現代語訳・口語訳と解説、そしてその品詞分解を記しています。
※万葉集は、奈良時代末期に成立したとみられる日本に現存する最古の和歌集です。天皇や貴族、役人や農民など様々な身分の人々が詠んだ4500以上の歌が収録されています。
原文
憶良らは今は罷らむ子泣くらむ それその母も我を待つらむそ
ひらがなでの読み方
おくららは いまはまからむ こなくらむ それそのははも われをまつらむそ
現代語訳
憶良めはもうおいとまいたしましょう。(家で)子が泣いているでしょうし、それにほら、その母(私の妻)も私を待っているでしょうよ。
解説・鑑賞のしかた
この歌の前書きには、「山上憶良が宴を退出する(ときに詠んだ)歌」と記されてます。
山上憶良(やまのうえ の おくら)は、遣唐使として唐に渡った経験をもつ飛鳥時代〜奈良時代の歌人ですが、このとき山上憶良は60~70歳でした。60~70歳の老人が、「家で子が泣いている」、「その子の母親が私の帰りを待っている」というのは非現実的であり、この歌は、
宴会から先に帰ってしまうとみんな気を悪くしてしまうだろうからということで、とっさに思い浮かんだジョークなんですね。そこにこの歌のおもしろさがあります。
「罷らむ/子泣くらむ/待つらむ」の「らむ」の違い
罷らむ | 「おいとまする」を意味するラ行四段活用「罷る」の未然形「罷ら」+意志の助動詞「む」の終止形 |
子泣くらむ | 「らむ」は、現在推量の助動詞「らむ」の終止形 |
待つらむ | 現在推量の助動詞「らむ」の連体形 |
■次ページ:品詞分解