百人一首(58)大弐三位/歌の意味と読み、現代語訳、単語、品詞分解、覚え方
有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする
このテキストでは、
百人一首に収録されている歌「
有馬山猪名の笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする」のわかりやすい現代語訳・口語訳と解説(掛詞、序詞、歌枕、句切れの有無など)、歌が詠まれた背景や意味、そして品詞分解を記しています。この歌は、百人一首の他に
後拾遺和歌集にも収録されています。
百人一首とは
百人一首は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した公家・
藤原定家が選んだ和歌集です。100人の歌人の和歌を、1人につき1首ずつ選んで作られています。百人一首と言われれば一般的にこの和歌集のことを指し、
小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)とも呼ばれます。
暗記に役立つ百人一首一覧
以下のテキストでは、暗記に役立つよう、それぞれの歌に番号、詠み手、ひらがなでの読み方、そして現代語訳・口語訳を記載し、歌番号順に一覧にしています。
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暗記に役立つ百人一首一覧
原文
(※1)有馬山 (※2)猪名の笹原 風吹けば (※3)いで(※4)そよ人を 忘れやはする
ひらがなでの読み方
ありまやま ゐなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする
現代語訳
有馬山近くの猪名の笹が生えている野原に風が吹くと、笹がそよそよと揺れます。(そのそよそよという音ではないですが)まったくそうですよ、どうして(私があなたのことを)忘れることがありましょうか、いや忘れません。
解説・鑑賞のしかた
この歌の詠み手は、紫式部の娘、
大弐三位(だいにのさんみ)です。1つ前の句「
めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に雲隠れにし夜半の月かな」が紫式部の句ですので、親子揃っての登場となりました。
詞書によると、しばらく通ってこなかった男が久しぶりに手紙をよこしてきました。手紙には、「あなたの心が他の男に移ってはいないか心配しています。」と書いてあります。この手紙に対して、「私は心変わりなどしていません。むしろ通ってこないそちらこそ心変わりしたのではなくて?」という気持ちをこめて詠んだ歌となっています。
風に吹かれて揺れる笹に自身の揺れる気持ちを重ね合わせ、通ってこない男への不満や不安を表現しています。
主な技法・単語・文法解説
■単語
(※1)有馬山 | 歌枕。現在の兵庫県神戸市有馬あたりの山々 |
(※2)猪名の笹原 | 現在の伊丹市周辺に広がっていたと伝えられる草原。猪名は歌枕。 |
(※3)いで | 感動詞。ここでは「まったく」と訳す。 |
■(※1)、(※2)歌枕
「有馬」、「猪名」がそれぞれ歌枕。歌に詠み込まれている名所のことを歌枕という。以下に例を記す。
【逢坂の関】
これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関
【生駒山】
君があたり見つつを居らむ生駒山雲な隠しそ雨は降るとも
■序詞
第三句まで(有馬山 猪名の笹原 風吹けば)が「そよ」を導く序詞。
■掛詞(※4)
「
掛詞」とは、ひとつの言葉に2つ以上の意味を重ねて表現内容を豊かにする技法のこと。この歌では、「そよ」が、「そうですよ、それそれ」などを意味する連語「そよ」と、笹が風に揺られるときのそよそよという音との掛詞。
■句切れ
句切れなし。
品詞分解
※名詞は省略しています。
有馬山 | ー |
猪名 | ー |
の | 格助詞 |
笹原 | ー |
風 | ー |
吹け | カ行四段活用「ふく」の已然形 |
ば | 接続助詞 |
いで | 感動詞 |
そ | 代名詞 |
よ | 間投助詞 |
人 | ー |
を | 格助詞 |
忘れ | ラ行下二段活用「わする」の連用形 |
やは | 反語を表す係助詞。係り結び |
する | サ行変格活用「す」の連体形 |
著者情報:走るメロスはこんな人
学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。