セム語族の概要
セム語族は
アフロ・アジア語族の一派で、西アジアやアフリカの一部で話される言語の集まりです。セム語族は紀元前3千年末から現代までの長い期間にわたって書き言葉としても用いられてきた言語の一族で、その歴史や分布、分類、特徴などについて様々な研究がなされてきました。このエッセイでは、セム語族の概要と、その主要な言語であるアラビア語、ヘブライ語、アムハラ語、アラム語などについて紹介します。
セム語族はアフロ・アジア語族の中でも最も人口の多い言語群で、北アフリカや南アジアで2億人以上の人々に話されています。セム語族の名前は、旧約聖書のノアの息子のひとりであるシェムに由来します。シェムの子孫とされる人々がセム語族の言語を話していたという考えから、18世紀末にゲッティンゲン学派の歴史家たちによってこの用語が作られました。セム語族の言語は、
アラビア語、ヘブライ語、アムハラ語などの現代の言語だけでなく、
アッカド語、ウガリト語、フェニキア語、古代ヘブライ語、古代南アラビア語などの古代の言語も含みます。セム語族の言語は、メソポタミア、レバント、アラビア半島、エチオピア、エリトリアなどの地域で文化や宗教の発展に大きな影響を与えてきました。セム語族の言語は、文字体系や音韻体系、形態体系、語彙などに共通の特徴を持ちます。セム語族の言語は、主に子音文字で書かれることが多く、母音は省略されるか、子音の上下に点や線で示されることがあります。セム語族の言語は、語根と呼ばれる子音の組み合わせに母音や接辞を付けて単語を作るという非連結的な形態を持ちます。
セム語族の分類
セム語族の言語は、東セム語派と西セム語派に大別されます。東セム語派には、紀元前3千年末から紀元前1千年頃にかけてメソポタミアで話されていたアッカド語と、紀元前3千年頃にシリア北部のエブラで発見されたエブラ語が含まれます。アッカド語は、楔形文字で書かれた最古のセム語族の言語であり、バビロニアやアッシリアの文明における公用語でした。エブラ語は、アッカド語とは異なる楔形文字で書かれたセム語族の言語であり、エブラの王宮で発見された約1万7千枚の粘土板に記されていました。エブラ語は、アッカド語とは異なる音韻体系や形態体系を持ち、西セム語派の言語との類似点も多く見られます。西セム語派には、北西セム語派と南セム語派に分けられます。北西セム語派には、紀元前2千年頃から紀元前1千年頃にかけてレバント地方で話されていたウガリト語やカナン語群(フェニキア語、古代ヘブライ語、モアブ語など)、紀元前1千年頃から現代までシリアやイラクなどで話されているアラム語、そして現代のヘブライ語が含まれます。ウガリト語は、アルファベットの原型となったウガリト文字で書かれたセム語族の言語であり、ウガリトの遺跡で発見された粘土板に記された神話や詩などの文学作品が有名です。カナン語群は、レバント地方の各地で話されていたセム語族の言語であり、楔形文字やフェニキア文字などで書かれていました。カナン語群の中でも最も重要な言語は、ユダヤ教やキリスト教の聖典である旧約聖書の大部分が書かれた古代ヘブライ語です。古代ヘブライ語は、紀元前6世紀にバビロン捕囚の後に衰退し、紀元後2世紀にはほとんど話されなくなりましたが、19世紀に復活運動が起こり、1948年にイスラエルの公用語となった現代ヘブライ語が生まれました。アラム語は、紀元前1千年頃から西アジアの広い範囲で話されるようになったセム語族の言語であり、アラム文字はヘブライ文字やアラビア文字の基礎となりました。アラム語は、古代のアッシリアやバビロニア、ペルシアの公用語であり、旧約聖書の一部や新約聖書の一部、ユダヤ教のタルムードなどにも用いられました。現代では、シリアのマアルラやトルコのトゥル・アブディンなどで話される西アラム語と、イラクやイランなどで話される東アラム語があります。南セム語派には、紀元前1千年頃から現代までアラビア半島やその周辺で話されているアラビア語と、紀元前1千年頃から現代までエチオピアやエリトリアで話されているエチオピア語群(ゲエズ語、アムハラ語、ティグリニャ語など)が含まれます。アラビア語は、イスラム教の聖典であるコーランの言語であり、イスラム教の拡大とともに中東や北アフリカ、南アジアなどの広い地域で話されるようになりました。アラビア語は、古典アラビア語と現代標準アラビア語という共通の書き言葉と、地域や国によって異なる口語という二重の言語体系を持ちます。エチオピア語群は、エチオピアやエリトリアの多様な民族や宗教の間で話されているセム語族の言語であり、エチオピア文字という独自の文字体系で書かれます。エチオピア語群の中でも最も古くから用いられた言語は、ゲエズ語であり、エチオピア正教会やエリトリア正教会の典礼言語として現在も使われています。アムハラ語は、エチオピアの公用語であり、エチオピアの人口の約3分の1に話されています。ティグリニャ語は、エリトリアの公用語であり、エリトリアの人口の約半数に話されています。