『飲酒』
ここでは「陶淵明集」に含まれる『飲酒』の書き下し文、現代語訳とその解説を行っています。この詩は、「飲酒」の題で詠まれた詩の中の1つです。
白文(原文)
左から右に読んでください。
結
廬 在 人 境
而 無 車 馬 喧
問 君 何 能
爾
心 遠 地 自 偏
採 菊
東 籬 下
悠 然 見 南 山
山 気 日 夕 佳
飛 鳥 相 与 還
此 中 有 真 意
欲 弁 已 忘 言
書き下し文
廬を結びて人境に在り
而も車馬の喧しき無し
君に問ふ何ぞ能く爾ると
心遠ければ地自ら偏なり
菊を採る東籬の下
悠然として南山を見る
山気日夕に佳く
飛鳥相与に還る
此の中に真意有り
弁ぜんと欲して已に言を忘る
現代語訳(口語訳)
隠遁して質素な庵を人里にかまえておりますが
車馬の音が騒々しいということはありません。
「どうしてそんなこと(静かに暮らすこと)ができるのか」(と聞かれたら)
「心が(世俗から)遠くはなれているので、住む土地も辺鄙なところとなる」(と答えます)。
菊を東のまがきで採り、
心をゆったりとして南山を眺めるのです。
山の様子は夕暮れ時がすばらしく、
飛ぶ鳥たちが一緒に(巣に)帰っていきます。
この(風景の)中にこそ真実があるのですが、
(それを)述べようとしても、とっくに言葉を忘れてしまいました。
解説
■句形と押韻
この漢詩は、「
五言古詩」という形式の詩です。「五言詩」と「古体詩」が組み合わさったものです。
■五言詩
五つに並んだ漢字からなる詩を「五言詩」と言います。
■古体詩
古体詩とは、ざっくりと言えば「五言絶句、五言律詩、七言絶句、七言律詩」以外の詩を指すと考えてください。
■押韻
この漢詩では、次の語が押韻となります。
「喧」、「偏」、「山」、「還」、「言」
単語
廬 | 質素な小屋 |
人境 | 人里 |
問君 | 「君」は「他人」ではなく「作者」を指している |
爾 | 「そのようなこと」と訳しているが、この語が指すのは「静かに暮らすこと」である |
籬 | 竹や柴などで、目を粗く編んで作った垣のこと。東にあるので「東籬」 |
悠然 | 悠然としているのは①作者の心、②南山の姿のどちらともとれるが、ここでは①で訳している |