蜻蛉日記
六月になりぬ
六月になりぬ。ついたちかけて長雨いたうす。見出だしてひとりごとに、
わがやどのなげきのしたばいろふかく うつろひにけりながめふるまに
などいふほどに、七月になりぬ。たえぬとみましかば、かりに来るにはまさりなましなど、思ひつづくるをりに、ものしたる日あり。ものもいはねばさうざうしげなるに、まへなる人、ありし下葉のことを、もののついでに、いひ出でたれば、ききてかくいふ。
をりならでいろづきにけるもみぢばは ときにあひてぞいろまさりける
とあれば、硯ひきよせて
あきにあふいろこそましてわびしけれ したばをだにもなげきしものを
とぞ書きつくる。