世の中になほいと心うきものは
世の中になほいと心うきものは、人ににくまれむことこそあるべけれ。たれてふ物狂ひか、われ人にさ思はれむ、とは思はむ。されど、自然に宮仕へ所にも、親はらからの中にても、思はるる思はれぬがあるぞ、いとわびしきや。
よき人の御ことはさらなり、下衆などのほどにも、親などのかなしうする子は、目たて耳たてられて、いたはしうこそおぼゆれ。見るかひあるはことはり、いかが思はざらむとおぼゆ。ことなることなきは、また、これをかなしと思ふらむは、親なればぞかしと、あはれなり。
親にも君にも、すべてうち語らふ人にも、人に思はれむばかりめでたきことはあらじ。