村上の先帝の御時に
村上の先帝の御時に、雪のいみじう降りたりけるを、様器に盛らせ給ひて、梅の花をさして、月のいとあかきに、
「これに歌よめ。いかがいふべき」
と、兵衛の蔵人に給はせたりければ、
「雪月花の時」
と奏したりけるこそ、いみじうめでさせ給ひけれ。
「歌などよむは世の常なり。かくをりにあひたることなむいひがたき」
とぞ、仰せられける。
同じ人を御供にて、殿上に人さぶらはざりけるほど、たたずませ給ひけるに、火櫃(ひびつ)に煙の立ちければ、
「かれは何ぞと見よ」
と仰せられければ、みてかへりまゐりて、
わたつうみの沖にこがるる物みれば、あまの釣(つち)してかへるなりけり
と奏しけるこそをかしけれ。蛙の飛び入りて焼くるなりけり。