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蜻蛉日記原文全集「廿五六日のほどに」

著者名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

廿五六日のほどに

廿五六日のほどに、西の宮の左大臣、ながされたまふ。見たてまつらんとて、天の下ゆすりて、西の宮へ人はしりまどふ。いといみじきことかなときくほどに、人にも見え給はで、逃げ出でたまひにけり。

「愛宕(あたご)になん」


「清水(きよみづ)に」


などゆすりて、つゐに尋ねいでて、ながしたてまつると聞くに、あいなしと思ふまでいみじうかなしく、心もとなき身だに、かく思ひ知りたる人は、袖をぬらさぬといふたぐひなし。あまたの御子どもも、あやしき国々の空になりつつ行くへも知らず散りぢりわかれたまふ。あるは御髪(みぐし)おろしなど、すべて、いへばおろかにいみじ。大臣も法師になりたまひにけれど、しひて帥(そち)になしたてまつりて追ひくだしたてまつる。そのころほひ、ただこのことにてすぎぬ。身のうへをのみする日記(にき)には入るまじきことなれども、かなしと思ひいりしも誰れならねば、しるしおくなり。



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・蜻蛉日記原文全集「廿五六日のほどに」

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長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店
The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library http://etext.lib.virginia.edu/japanese/

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