中納言殿まゐり給ひて
中納言殿まゐり給ひて、御扇たてまつらせ給ふに、
「隆家こそいみじき骨は得て侍れ。それを張らせてまゐらせむとするに、おぼろけの紙は、え張るまじければ、もとめ侍るなり」
と申し給ふ。
「いかやうにかある」
と問ひ聞こえさせ給へば、
「すべていみじう侍り。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり』となむ人々申す。まことにかばかりのは見えざりつ。」
と、言たかくのたまへば、
「さては扇のにはあらで、海月(くらげ)のななり」
と聞こゆれば、
「これは隆家が言にしてむ」
とて、笑ひ給ふ。かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、
「ひとつな落としそ」
といへば、いかがはせむ。