現代語訳(口語訳)
秦の王は、礼服を着て九賓の礼をもって、燕の使者と咸陽宮で会いました。
荊軻は、樊於期の頭の入った箱をささげました。
そして秦舞陽は(燕の督亢という土地の)地図の(入った)箱を捧げました。
(正使である荊軻に次いで)順に進み出て(玉座の前の)階段にさしかかると、秦舞陽は顔色を変え、震えておののいています。
(秦の)家臣たちはこれをあやしく思いました。
荊軻は振り返って秦舞陽を見て笑い、進み出て謝罪して言いました。
「北方未開の地の田舎者なので、いまだかつて天子に謁見したことがないのです。
それゆえに震えおののいているのです。
どうか大王様におかれましては、少しの間多めに見て頂き、使者の役目を果たさせて頂きたく思います。」と。
秦王が荊軻に言いました。
「秦舞陽の持っている地図を取れ。」と。
荊軻はすでに地図を取ってこれを秦王に献上しました。
秦王が地図を開きます。
地図が開きおわると(中から)匕首が出てきました。
そこで(荊軻は)左手で秦王の袖を取り、右手に匕首を持って秦王を指しました。
(しかし)まだ秦王の体には届きません。
秦王は驚いて、自分の身を引いて立ち上がりました。
袖がちぎれます。
秦王は剣を抜こうとしました。
剣は長い(のですぐには抜けません)。
その剣のさやを掴みました。
慌てふためいている上に、剣がさやにしっかりとおさまっています。
そのためにすぐに剣を抜くことができないでいます。
荊軻は秦王を追いかけました。
秦王は柱をぐるぐると走り回って逃げました。
単語・文法解説
| 朝服 | 朝廷での正装。秦王が正装を着て燕の一行をもてなすということから、大歓迎をしていることが伺える |
| 九賓 | 9人の接待係で来客をもてなす最高のおもてなし |
| 樊於期 | 秦の将軍であったが燕に亡命していた人物。秦王への恨みを荊軻に晴らしてもらうために自らの首を荊軻に捧げ、その首をもって荊軻が秦王と会う口実とさせた |
| 地図 | 秦王に謁見するために燕は、樊於期の首と燕の督亢という土地を譲渡するという条件を秦に出していた |
| 陛 | 階段 |
| 未嘗見天子 | 「未」は再読文字。「いまだ〜(せ)ず」と読み、「いまだかつて〜(し)ない」と訳す |
| 図窮 | 巻物を開いていって、その終わりになった段階 |
| 未至身 | 「未」は再読文字。「いまだ〜(せ)ず」と読み、「まだ〜(し)ない」と訳す |
| 惶急 | 慌てふためく様子 |