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9_80 文章の読み解き / 文章の読み解き

今昔物語集『藤原為時、詩を作りて越前守に任ぜられし語』の現代語訳

著者名: 走るメロス
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今昔物語集『藤原為時、詩を作りて越前守に任ぜられし語』

ここでは、今昔物語集の中の『藤原為時、詩を作りて越前守に任ぜられし語』の現代語訳と解説をしています。書籍によっては、『藤原為時、詩を作りて越前守に任ぜらるる語』や『藤原為時、詩を作りて越前守に任ぜられ語』と表記されることもあるようです。

原文(本文)

今は昔、藤原為時といふ人ありき。一条院の御時に、式部丞の労によりて受領にならむと申しけるに、除目の時、闕国なきによりてなされざりけり。その後、このことを嘆きて、年を隔てて直し物行はれける日、為時、博士にはあらねどもきはめて文花ある者にて、申し文を内侍につけて奉り上げてけり。その申し文にこの句あり。

苦学寒夜紅涙潤襟
除目後朝蒼天在眼

と。内侍これを奉り上げむとするに、天皇のその時に御寝なりて、御覧ぜずなりにけり。


然る間御堂、関白にておはしましければ、直し物行はせ給はむとて内裏に参らせ給ひたりけるに、この為時がことを奏せさせ給ひけるに、天皇、申し文を御覧ぜざるによりて、その御返答なかりけり。然れば関白殿、女房に問はしめ給ひけるに、女房申すやう、

「為時が申し文を御覧ぜしめむとせし時、御前御寝なりて御覧ぜずなりにき。」

然ればその申し文を尋ね出でて、関白殿、天皇に御覧ぜしめ給ひけるに、この句あり。然れば関白殿、この句微妙に感ぜさせ給ひて、殿の御乳母子にてありける藤原国盛といふ人のなるべかりける越前守をとどめて、にはかにこの為時をなむなされにける。これひとへに、申し文の句を感ぜらるる故なりとなむ、世に為時をほめけるとなむ、語り伝へたるとや。

現代語訳(口語訳)

今となっては昔のことですが、藤原為時という人がいました。一条院の御代に、式部丞として(働いた)の功労によって受領になりたいと申請をしたのですが、除目の時には、国司のポストが空いている国がなかったので任命されませんでした。その後に、このことを嘆いて、翌年除目の修正が行われる日に、為時は、博士の職ではありませんでしたがとても文才のある人物ですので、申し文を内侍に託して(朝廷に)奉呈したのでした。その申文にはこの句が載っています。

苦学寒夜紅涙潤襟
除目後朝蒼天在眼

内侍はこれを奉呈しようとしたところ、天皇はその時はご就寝されており、ご覧になりませんでした。


さて、藤原道長公が、関白の位にいらっしゃったので、除目の修正を行われようと内裏に参内なさったときに、この為時のことを奏上なさったところ、天皇は、申し文をご覧になっていなかったので、その(為時についての)ご返事がありませんでした。そのようであったので関白殿は、女房に(返事がなかった理由を)お尋ねになられたところ、女房が(次のように)言います。

「為時殿の申し文をご覧にいれようとしたとき、天皇はご就寝されていたのでご覧になならなかったのです。」

そのようであったので(関白殿は)その申し文を探しだして、天皇にご覧にいれたところ、この句がありました。関白殿は、この句をすばらしいとお感じになられて、関白殿の乳母子であった藤原国盛という人がなるはずであった越前守(への派遣)を中止して、急にこの為時を(越前守に)任命されたのでした。これもひとえに、申し文にあった句に(関白殿が)感心なさったからでしょうと、世間では為時のことを褒めたのですと、語り伝えられているということです。

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『教科書 高等学校古典B』 第一学習社
佐竹昭広、前田金五郎、大野晋 編1990 『岩波古語辞典 補訂版』 岩波書店

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