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平家物語原文全集「願立 4」

著者名: 古典愛好家
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平家物語

願立

「衆生等確かにうけ給はれ。大殿の北の政所、今日七日わが御前に籠らせ給ひたり。御立願三つあり。一つには、今度殿下の寿命を助けてたべ。さも候はば、下殿に候ふ諸々(もろもろ)のかたは人に交はって、一千日が間、朝夕宮仕ひ申さんとなり。大殿の北の政所にて、世を世とも思し召さで過ごさせ給ふ御心に、子を思ふ道に迷ひぬれば、いぶせき事も忘られて、あさましげなるかたはうどに交はって、一千日が間、朝夕宮仕ひ申さんと仰せらるるこそ、まことに哀れに思し召せ。二つには、大宮の波止殿より、八王子の御社まで、回廊つくって参らせむとなり。三千人の大衆、降るにも照るにも社参の時、いたわしうおぼゆるに、回廊つくられたらば、いかにめでたからむ。三つには、今度殿下の寿命を助けさせ給はば、八王子の御社にて、法花問答講、毎日退転なくおこなはすべしとなり。いづれもおろかならねども、かみ二つはさなくともありなむ、毎日法花問答講は、誠にあらまほしうこそ思し召せ。ただし今度の訴訟は、無下にやすかりぬべき事にてありつるを、御裁許なくして、神人宮仕射殺され、きずをこうぶり、泣く泣く参って訴へ申す事のあまりに心憂くて、いかならむ世までも忘るべしともおぼえず。その上、かれらにあたるところの矢は、しかしながら和光垂迹の御膚に立ったるなり。まことそらごとはこれを見よ」


とて、肩脱いだるを見れば、左の脇の下、大なるかはらけの口ばかりうげのいてぞ見えたりける。

「これがあまりに心憂ければ、いかに申すとも、始終の事はかなふまじ。法花問答講一定あるべくは三年が命をのべて奉らむ。それを不足に思し召さば、力及ばず」


とて、山王あがらせ給ひけり。

つづき



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・平家物語原文全集「願立 4」

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梶原正昭,山下宏明 1991年「新日本古典文学大系 44 平家物語 上」岩波書店

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